人気フリーゲーム『殺戮の天使』から学ぶ、面白いゲームの作り方


『殺戮の天使』とは

今回の記事は、あるゲームを題材に、感動するゲームの作り方を語っていこうと思うわけだが。そもそも、「殺戮の天使」ってフリーゲーム、知ってるか?

知らない。

っていう人のために、簡単に説明しておこう。

殺戮の天使とは、ニコニコゲームマガジンにて連載中の、ツクールVX Ace製のフリーゲーム。
ジャンルはサイコホラーADV
マップを探索し、アイテムや仕掛けを解くことで先に進んでいく、ツクールホラーでは割とオーソドックスなシステム。
キヨ氏の実況動画ではミリオン超えを果たしている人気作。

公式サイト

ということが分かれば十分だ。

うん? ストーリーとか、キャラ設定とかは説明しないの?

それはまた後で説明する。特に「マップを探索し、アイテムや仕掛けを解くことで先に進む」ってのを覚えておいてくれ。

「鍵を探してドアを開ける」とかでしょ? よくあるやつだよね。OK。

そうそう。この殺戮の天使、一見するとその辺にありそうな普通のツクールホラーなんだが、細かいところに目を向けると、市販ゲームでもあまり使っていないような高等テクニックが使われているんだ。今回はそれを解説したい。

ずいぶんと大げさな褒め方をするね。それじゃ、どんなテクニックなのか聞かせてください。

面白いゲームを作るコツ

さて、説明がすんだところで、さっそく面白いゲームを作るコツを書いていこう。

よろしくお願いします。

……と言いたいが、説明するためには、殺戮の天使の一部ネタバレを書いていくことになる。話の展開が気になっている人は、残念ながらここで回れ右だ。ごめんな。

まあ、ゲームを題材に説明する以上は仕方ないよね……。

では気を取り直して、今度こそ。殺戮の天使の、ある2場面を取り上げて解説する。まずは該当シーンが収録された実況リンクを貼るぞ。できればその回だけでも見ておいてほしい。

このシーンの、大体9分ぐらいからが該当シーンだ。

……血気盛んなお兄ちゃんが、墓石を壊しまくっているね。

そう。このシーンに、先ほど述べた高等テクニックが用いられている。

はあ!? どういうことよ。ただのギャグシーンじゃん。

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▲ザックという乱暴な性格のキャラクターが、ひたすら墓石を壊しまくる。

と、ただ見せられても何が言いたいのか意味不明だと思うので、これのなにがすごいことなのか説明する。

先ほども述べたが、このゲームはマップを探索し、アイテムや仕掛けの突破で物語を先に進めていくアドベンチャーだ。
部屋の全部のオブジェを調べたり、拾ったアイテムを別の場所で使うと次のイベントのトリガーが発生する類のアレで、乱暴な言い方をするなら歩ける脱出ゲームと言ったところだ。

この墓石エリアも、本来なら謎解きのために、主人公のレイチェルという少女が別行動で調べ物をしている最中なのである。
「このたくさん並んだお墓……なにか仕掛けがあるかもしれない」と思わせぶりなエリアなのだ。

そんな中、ザック(墓石クラッシャー)は一人残されており、暇だしむしゃくしゃするから、墓石を片っ端からぶん殴ってハイになっていたら、なにかの弾みで仕掛けが解除されてしまった、という展開なのである。

要するに、このギミックは謎解きとしての体裁がなく、ただ単にザックはアホの子で乱暴者という印象を強く植え付けるためだけに存在するギミックなんだ。これがどれだけ斬新なことか分かるか?

うーん、まだよく分からない。

多くのゲームは、システムはシステム単独で楽しめるように作られている。謎解きなら謎を解く楽しみが堪能できる作りになっている。ところが殺戮の天使では、時にシナリオを際立たせるためだけに、システムを利用するというテクニックが使われているんだ。

今までそのゲームで謎解きをさせられてきたプレイヤーが、ある時鍵のかかったドアを前にしたら、「鍵はどこにあるかな」といった思考が働くし、主人公もそれを促している。そんな中、相棒が「うるせえ、こんなもん殴って突破すりゃいいだろ!」とドアを破壊して次のエリアを切り開く。インパクトがあるだろ?

確かに、強烈な印象をいだくね。

いまいち何を言っているか分からない、という人のために、もう1つ例を出してみよう。


これもできれば、この回だけでも見てほしいのだが、面倒くさがりな人のために簡単にあらすじを書いていく。

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経緯は省略するが、先ほどの墓石クラッシャーであるザックは深手を負い、彼のナイフをお守りに、主人公レイチェルが単身で行動することになる。

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以後、ナイフを使った仕掛けで先に進んでいく。
「触れたら火傷する水の奥にスイッチがあるので、ナイフで押す」
「ナイフで電流を流して扉を開ける」
など、少々無理のある謎解きだが、もらったナイフを使うだけなので、まず詰まる人がいないほど簡単だ。
はっきり言って、ゲームとしての面白みはほとんどない。

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場面は変わり。単身で行動していたレイチェルは拘束され、火あぶりの幻覚に襲われる。

なにがあったー!?

火あぶりに至る経緯を書くと長くなるし、講座と関係ないので省略。気になるなら遊んでみてくれ。

で、はりつけにされて燃えそうになっている中、ふとザックのナイフを持っていたことを思い出す。

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ナイフで磔が解けたレイチェルは、炎の中にあるナイフを手に取り、自分を切ってからこう呟く。

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で、炎の幻覚が解けて、現実に帰ってこれた、という展開。

要するに、「このお守りが銃弾を防いでくれた」という、あまりに使い回されて逆に最近は見かけなくなった鉄板ネタだ。

ああ、なるほど……確かに、このストーリーだけ見ているとありきたりだけど、さっきのナイフの謎解きを見せられているプレイヤーにとっては違って見えてくるのね。

そう。さっきのナイフの謎解きを思い出してほしい。「ザックのナイフが無ければ先に進めない」という仕掛けが連続で起きていて、ここでプレイヤーは「ザックのナイフのおかげ」という認識が、操作を通じて記憶に刷り込まれていくことになる。

その記憶が刻まれた後に、とっておきの派手なストーリー展開でナイフによる脱出を見せられると、「ああ、あの時のナイフ!」となるわけだ。ここで、ただナイフを拾い、無関係な謎解きを進めたあとでいきなりポンとナイフが出てきたところで、最悪「んなもん拾ってたっけ?」なんてことになってしまう。

その後のストーリーを盛り上げる伏線のため。プレイヤーの記憶にストーリーの一部を刻みこむためだけに、システムやギミックを利用する。ストーリーのために、ゲーム性を切り落とした操作をさせる。これこそが、殺戮の天使で使われている高等テクニックだ。

一見すると斬新には見えないけど、じゃあ他作品で例を挙げてみろと言われると難しいかもね。

そう。使われているようで、意外と注目されていないテクニックだ。

とはいえ、ゼロではない。殺戮の天使オリジナルテクニックとまで言うつもりはない。
シオンが思いついた限りで、市販ゲームの例を挙げてみよう。

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逆転裁判をご存知の人は多いだろう。
法廷を舞台にしたミステリーゲームだ。

2以降でサイコ・ロックというシステムが登場し、「証人が秘密をかかえているのを視認できる」というものだ。
証拠をつきつけて鍵を壊すと、証人が心を開いて証言をしてくれる。

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このサイコ・ロック、鍵の数だけ秘密をかかえており、鍵が5個ある場合は5回論破しなければならないシステム。
そのため、鍵マークが多いほど強敵という分かりやすさを兼ね備えているのだが……。

とあるイケメン好きのオバチャンが、鍵マーク4個のサイコ・ロックを発動するも、「イケメンのプロマイド」をちらつかせることで心が揺らぎ、一気に4個鍵がブレイクして証言してくれる、というネタ回があるんだ。

なるほど……本来は「事件に関連する証拠品を推理してつきつける」という謎解きなのに、それに関しては「おばちゃんのネタっぷり」を楽しむためだけにシステムを利用してるってことね。

話を殺戮の天使に戻す。先ほどの墓石クラッシャーのシーンも、実はレイチェルの名前が刻まれた墓石がある。それを本人の目の前で壊した後、ザックはこんなことを言ってのける。

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ただの乱暴者に見えていたザックの、唐突なイケメン展開。このように、印象的なシーンをさらに引き立たせるための、ゲーム性を失った操作が意図的に仕込まれている。

なるほど。ゲームとしてどう面白くしようかだけで考えず、ストーリーとシステムを密着させることで、ゲームならではの強烈なインパクトを生み出しているってことだね。

この手のツクールホラーは、「ただ歩いて調べて物語を読むだけ。キャラとストーリーが評価されてるだけで、ゲームとしては空っぽ」という人は多いが、ちょっと見方が変わってきたんじゃないかな?

ゲームシステムには、こういう使い方もある。意識してみると、可能性も広がりそうだな。


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1件の返信

  1. 初心者913号 より:

    なるほど……。進行とは関係のない部分にシステムを用いるという見方、素晴らしいです。
    普通の人だったら「話が面白かった」「謎解きが斬新だった」などでプレイを済ませてしまうところを、ここまで掘り下げて考察することができるんですね。
    確かに、ある種そういった「お遊び」ともとれる要素や仕組みを入れることで、プレイヤーの心に残る作品ができるのだと思います。
    今後製作していく上で非常に有用な記事でした。ありがとうございます。

    今後もこういった考察記事、待ってます!

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